逆境から立ち上がった臨床心理士

―ADHD・ASD・ギフテッド・養護施設出身の被虐待児―

自叙伝48 幸せの絶頂から転落する私

毎朝、制服を着るのが嬉しくて仕方なかった。

 


自分にとっては恐れ多い、夢のような高校だったから

同級生がダサいと嫌がっていたその制服や指定カバンは
私にとって誇りだった。

 

 

それにその時の私にとって

 

頭がおかしい虐待する親がいるボロく不潔な家から
綺麗な制服を着て背筋を伸ばして学校に向かうことは

 

まるでシンデレラのような気持ちで
つかの間の夢を見させてくれる時間だった。

 


こんなことが起きていいのかと
本当に奇跡としか思えなかった。

 

 


奇跡はまだ続いた。


私のクラスの女子のスクールカースト上位の子たちは
学年でも人気の子で実質学年でもスクールカースト上位のグループだ。

 

そのリーダーの篠崎さん
通称「シノ」はバスケ部キャプテンで学年でも一番目立つ存在。

 

 

そのシノが私に話しかけてくる。

「竹田さん、学年トップすごいね」

 

「竹田さんってきれいね」

シノは私の容姿をすごく褒めた。

 

醜形恐怖の私は強迫的に自分を磨いていたから
綺麗な雰囲気は出していたんだと思う。

 

 

ハイになっている私は元からあったピエロ体質が冴えに冴え
おしゃべりで周りをいつも笑わせていた。

 

「竹田さんきれいなのにめっちゃ面白い」

 

シノは私に夢中なように続ける

「こんな人はじめて。友達になって」

 

 

スクールカースト上位の子に最初だけ惚れ込まれる経験は初めてじゃない。

 

でもここまで強く褒められることはなかったし
学年で一番の人気者の女子に好かれるなんて初めてだった。

 


夢のようで嬉しくて仕方なかったはずなのに

 

私はどんどん傲慢でおかしくなっていっていて
それすら当たり前のように

「いいよ」

上から目線で答えた。

 

 

シノは明るく元気で気遣いもできてユーモアも抜群。
どんな人とも物怖じせず話せる。
勉強も出来てスポーツも出来て完璧。

 

そんな人にまるで一番好きな友人のように扱われて
さらに私は根拠の無い自信を大きくしていく。

 


シノはスクールカースト上位の女子と男子をしきり
遊びに誘う。

 

私服で会うと「みゆってオシャレね~」

カラオケにいけば、「みゆは歌まで完璧~」


みんなの前でとにかく私を褒めちぎる。

 

 

友人関係で苦労してきて惨めな思いをしてきた私は
信じられない幸せだ。


でも身の丈に合わない幸せは私をおかしくしていった。


もしかしたらこれが初めての境界性人格障害の片鱗だったのかもしれない。

 

 

シノのような完璧な人に惚れ込まれて

 

自分はとてつもなく万能な人間と思い込んでしまって
自分は何をしてもシノが惚れ込んでいてくれるような気がして

 

本当の自分を出し始めてしまう。

 

 

家で大きな問題が起きた日
その話を聞いてもらうことはできないから

不機嫌を丸出しにして気を遣わせた

 


入学して一ヶ月も経つとシノはどんどん友人が増える。
人気者のシノの友人はまたレベルが高い

 

それに対して焼きもちをやいて自分への褒め言葉を要求したり
シノの友人の悪口を言ったりする卑屈で自信がない私が出てきた

 

シノが私の正体に気づいて気持ちが離れ始めたとき
焦りと怒りでいっぱいでさらにどうしようもない人格を見せた

 

 

こうなるともう
明るく元気で面白くて気遣いができて優しく素敵な私は居なくなる。

 

 

いつも誰とも馴染めない変人で
笑われて馬鹿にされて指を指される私
怖がられて嫌がられて避けられる私・・・

 

そんな記憶が押し寄せて
もうその頃のオドオドと人の顔色をうかがう私に戻ってしまった。

 


ここまで転がりおちても
シノのグループから出るわけにいかなかった。

 


みんなシノと同じように育ちも良く人柄も良く余裕があって明るく元気。

 

シノが私を崇拝しているときは
みんなは首をかしげながらも私を大事にしてくれていた。


それがシノが私を避けるようになってからは
私が話す度に苦笑いをしたり空気が凍るようになった。

 

 

針のむしろ。本当にそうだった。
私はそこに座らせてもらってるだけで痛くてしかたがない。

 


でも入学してすぐにスクールカースト上位のグループに居たのに

学年で一番人気のシノに嫌われてグループから出るなんて
死刑も同然だ。

 


人気者の人たちやクラス全員が
「竹田の性格がヤバいからシノに嫌われた」

そうみんなにバレてしまうんだから。

 


でも
必死にしがみついても長続きはしない。

 


シノから死刑宣告。

「ごめんね。私たちもうみゆと仲良くできない」

 

 

私の居場所はなくなった。

 

なくなっただけでなく
あの「シノ」に見限られたヤバいやつというレッテルも貼られた。

 

 

この時私は死のうかと本気で思った。

 


あれだけの過酷な経験をしてきた私が
たった1人の友人に嫌われてグループから出されただけで?

 

私もそう思う。

 

今思うと
人間はきっと落差に弱いんだと思う。

 


どん底でいつも底辺にいるのが当たり前だった

苦しい思いをずっとしているのも当たり前

人に嫌われるのも馬鹿にされるのも当たり前

色々上手くいかないのも当たり前

 


全部当たり前だったから苦しかったけど
自分はそういうものだと思ってたから平気だった。

 


それが幸せを知ってしまった。
最高の気分を味わってしまった。


そのあとに突き落とされて失う気持ちは
経験したことの無い地獄の苦しみだった。

 


シノとよく遊んでた人気者の人たちが
手のひらを返すように態度が変わり私に対して向ける目も変わった

 

クラス皆が私をかわいそうだと思っているのがわかる

 

毎日シノ達が楽しそうにしている姿を
「ついこないだまで私はあそこの中心に居たのに」

 

恨みがましい顔をして眺める私

 

 

行き場が無くなってたどり着いた場所もつらかった。

 


私は尊敬できない、少しも魅力を感じない人たちに
頭を下げてグループに入れてもらった。


人の悪口ばかり、マウンティングばかり
勉強もスポーツも何も一生懸命やろうとしないオタク達。

 

そんな場所でも「シノに見限られた人」扱いだったからか
私はみんなに馬鹿にされながら過ごすことになった。

 

外から見たらイジメでは無かったけど
私にはイジメそのものだった。

 

 

この頃は本当は私が勉強ができないことも明らかになっていたし

モテモテだった私も自信をなくして暗くなってモテなくなって

どん底で明るく元気で面白い私ではなくなっていたから


私はただそこで馬鹿にされるだけの役割だった。

 


何を言ってもやっても侮辱され鼻で笑われ
時に無視をされ

その相手は自分も軽蔑するような相手。

 

私は本来はオタクだったしオタクの人が大好きだったけど
イジメを受けてから大嫌いになった。

 

ここまで残酷な扱いを受けたのははじめてだった。

でも私にはそこしか居場所が無かった。

 

 

一緒に過ごしていた人の変化
自分に対する人たちの評価

色んなものが崩れ去ってどん底で


高校生活が始まって半年だというのに
私はこの先の高校生活、人生全て終わったという絶望で

 

いつ死のうかと考えながら生きていた。