逆境から立ち上がった臨床心理士

―ADHD・ASD・ギフテッド・養護施設出身の被虐待児―

自叙伝59 努力ではどうにもならない現実を思い知らされる私

大学生活のはじまり。

思い出そうとすると眩しくて眩しくて。

 

 

高校生活のはじまりの時もそうだった。

 


真っ暗闇の中にいた私にとっては
自分には恐れ多いレベルの高校はあまりに眩しかった。


自分のような人間が紛れ込んでいいのだろうかと
こんなにキラキラした人たちが大勢いる場所で私が過ごすのかと圧倒された。

 

 

そんな高校生活を何とかやってきて

 

何とかやってきたというより
十分すぎるぐらいちゃんと上手くやってきて

 

大学だって楽勝だろうと思ってた。

 

 

ところが大学はそれを超えてきた。

 

今になって冷静に考えてみれてみれば
色々と分かることはある。

 


大学生はみんなハイになってるし最初は全力を出してくるだけで
かっこつけて背伸びしてるだけで、そんなに凄い人ばかりじゃない。

 

 

今の時代とは違って

 

そこそこの偏差値の大学の大学生っていうだけで鼻が高くて
みんな自尊心が高くなって自信満々な態度をとっていただけだと思う。

 

 

夢と希望に満ちあふれて上京してきた人たち

大学で何かを極めよう自分を高めようと気合いが入ってる人たち

大学デビューをしてとにかくカッコよく明るく楽しくしようと意気込む人たち

 

そんな人たちの希望で
大学全体が圧倒的なポジティブな空気に溢れている。

 

 


私は恐がりのくせに
トラウマで誰よりも自尊心が低いくせに
生い立ちやこれまでの経験から自分は普通じゃ無いと思ってるくせに

 

すぐにその場の空気に流されてしまうところがある。

 


その場の空気の方に集中して
自分の存在がどうだったか忘れてしまう。

 


すぐにその場で負けてなるものかと臨戦態勢に入っては
いつのまにかその場に馴染むというか仕切る立場になってしまう。

 

 

いつもその場に飲み込まれているのに飲み込まれない・・・
説明が上手くできないな。

 

 

 

大学はとにかく衝撃的だった。

 


みんなオシャレで堂々としていて笑顔に溢れていて
物怖じせずに人見知りせずに色んな人と話している。

 


私の大学は地方出身者が多いからか免許を持っている子ばかりで
駅から離れた大学だから多くの人が車に乗っていた。

 

本当に大人に見えてかっこよくて惚れ惚れした。

 

 

田舎の大学で完成してからそれほど経ってない校舎だったから
広くてピカピカでかっこいいキャンパスに胸がおどる。

 

すり鉢状?で200人くらい入れる教室に
「ドラマと同じ!」と大興奮した。

 


飛び交う言葉も大学特有のワード
「履修」「教授」「代返」「ゼミ」

 

まぁ普通のワードなんだけど、私にとってはその言葉1つ1つがカッコよく感じて
使いこなす人たちに羨望の眼差しを向けてた。

 

 

圧倒されるばかり。

 


私自身は圧倒されて萎縮していたんだけど


やっぱり後になって人から聞いてみると

 

私は人一倍ハイテンションで
キラキラしたパーティピープルの一員に見えていたらしい。

 

 

私はオシャレが好きだったし目立ちたかった。

 

この頃私はとにかく人と違う格好がしたかった。
そういう変なオシャレが高く評価される時代だったと思う。


若者に流行ってるけど、大学生には少なかったベルボトムを履いたり
女の子には少ないスポーツミックスの格好をしたり
古着を着たり、首輪をしたり・・・

 

大学だというのにね。

 


それでピエロ体質で人を笑わせようとするし
人と距離をとれない病的な人懐こさがあるし
大勢の前に出るのも仕切るのも慣れていたから


大学の嘘っぽいポジティブな空気にすぐに馴染んだ。

 

 


心の中はいつも変わらない。


「すてき!かっこいい!信じられない!」

「私なんかがこんな人と!こんな場所に!信じられない!」

「私なんかがこんなことをしてるなんて信じられない!」

 


それなのに外から見ると

キラキラとした恵まれた人に見えてしまうのが私だった。

 

 


高校生の時もそうだった。

 

いつも自分以外の人が
かっこよすぎて大人すぎてちゃんとしていて

 

驚いて傷ついて情けなくて
置いて行かれる焦りで泣きたいような気持ち。

 

 

高校でアルバイトなんてすごい
原チャリにのるなんてかっこよすぎる
大学生の彼と付き合ってるなんて経験があるなんてなんて大人
留学なんてすごすぎる
将来の夢があるなんて

 


私はずっと小学生のように子どもで変わらないままで居たかったから

大人になっていく周りの人に萎縮してばかりだった。

 

なのに、ただそんな周りの人と同じように
平然と大人のように振る舞うことだけは上手で。

 


だから
高校生活も周りについていくのに必死だったし相当苦しんだものの
普通の高校生らしい青春を経験できたのかもしれない。

 

 

そんなふうにして私は大学生活も何とかやっていくのだが
ここからも打ちのめされる経験が何度も何度もあった。

 

 

 

私が住んでいる夢のようなマンションは学生専用で
そこの9階に住んでいたのがルリコだった。

 


マンションの入り口でばったり会った時は驚いた。

 

小顔でアイドルみたいに可愛くて
流行の大きな襟と大きな袖のブラウスにキャスケットを被っておしゃれで。

 


そんなルリコは私に話しかけてきた。

 


「よかったーこんな子がいたなんて」

「新入生だよね?私も!仲良くして」

 


こんなに可愛くてオシャレなのに
明るくて性格が良くて人懐こいなんてアリなのか・・・

 


ルリコは気取りがない。そして積極的だ。

 

「私ね、岡山の田舎者だからみゆみたいな都会の人に憧れる」

「みゆと仲良くなりたい!これからずっとよろしくね」


あぁ高校の時のシオを思い出す。

 

 

ルリコはどう考えても完璧だ。

多分高校でも一番の人気者だったに違いない。

 

 

また私はこういう子に見初められ
ハイになっている私は上から目線で答える

 

「いいよ」

「岡山なんだ?ルリコもオシャレだよ」

 


嫌なやつ。


自分よりも上の人間だと感じれば感じるほど
必死に張り合おうとする私が出てくる。

 

 

ルリコは私にぞっこんで

 

「みゆって何でそんなにオシャレなの」

「みゆの部屋おしゃれだなー」

「みゆって面白い」

 

私を褒めまくってはとにかく私にべったり。

 


岡山から上京して
家族とはじめて離れて寂しくてしかたがないって言いながら

 

同じマンションだからずっと私の動向を気にしてくっついてくる感じで
少しうっとうしいと感じるくらいだった。

 

 

大学が始まる前の一週間ですっかり仲良くなった私たち。

大学初日に仲良しがいると心強い。

 

ルリコという自慢できる完璧な友達を手に入れて
自信満々で意気揚々と大学の門をくぐった。

 

 

 

私たちに大学の先輩達が殺到してくる。


サークル勧誘だ。

 


かっこいい先輩達が必死に勧誘をしてくる。
本当にすごい勢いでチヤホヤされている。

 


すぐに調子にのる私は「私は求められる人間」なんて思って
また舞い上がる。

 

もちろんこんな言葉にはなっていないけど
一瞬で舞い上がって自分が素晴らしい存在のような気分になってしまう。

 

 

時代もあるし私の大学では
それほどオシャレをしている新入生がいなくて

私とルリコは目立っていた。

 

 

時代なのか、世代なのか、私の知る世界だけだったのか分からないけど

この頃はどれだけ目立てるか、それがその子の価値だった気がする。

 

 

だから私とルリコはサークル勧誘が激しかった。

 


「飲み代はタダだからお願いだから来るだけきて」

「迎えに行くし送りに行くから」

「30分でもいいから顔出して」


もう私たちは女王様気分だった。

 

 

私もルリコも最初はオドオドとしていたけど
こんなことがあって

 

大学での自分たちの価値がわかって
二人とも自信の無い態度がみるみると変わっていった。

 

 


でも私は気づいてしまった。


サークルの先輩たちはルリコしか見ていない。

 

たまにお愛想程度に私をチラリと見るものの
必死に誘っているのはルリコだ。

 

ルリコが私の顔色を伺っているのを見て
私に決定権がありそうだと踏んで、そこで私を説得しようとする。


こんなことが繰り返された。

 

 

高校の時

私はなぜかモテた。だから私はチヤホヤされるものだと勘違いしていた。

 

 

それが大学に入り、少しずつ崩壊しはじめる。


このサークル勧誘がはじめの一歩。

 

でもまだこの時は
「ルリコがあまりにも素敵すぎるから引き立て役になっても無理ないか」って思ってた。

 

 


嵐のようなサークル勧誘の後
二人だけでゆっくりとご飯を食べながら話をしていたら

 

ルリコはこう言った。

 

「みゆ、どうする~?行ってあげる?」

「このサークルはダサいからやめよう」

「ここ楽しそうだしタダでごはんだけ食べに行こうか?」

 


ルリコの変化に驚いた。

 

岡山から出てきて自信がなくて完璧だけど謙虚だったルリコは
一日で自分の価値に合った表情、態度に変わった。

 


大学が始まるまで、私の方が立場が上だった関係が
少しずつルリコの方が上になっていくのがわかる。

 

 

上だ下だと上下をいつも意識しているつもりはなくても
若い頃は誰もが無意識にそんな値踏みをして
友人に対する態度を決めているんだと思う。

 


ルリコは私への憧れの態度、懐くような態度は無くなり
急激に自信をつけて「私たちはイケている」になった。

 

 

 

授業が始まり同級生との出会いがあると
ルリコの人気は爆発した。


派手でイケている人はみんなルリコと仲良くなろうと話しかけてくる。
ルリコも自信満々に明るく無邪気に応える。

 

 

帰国子女でイケメン美女数人
モデルで背が高いイケメンと美女

 

そんな明らかに育ちが良くセンスが良く
容姿もいいグループの人たちとルリコは仲良くなった。

 


私はルリコの仲良しということで紹介されたけど
明らかに浮いてた。

 

品の良さも美しさも余裕も

小さい頃からずっと人気があって肯定されてきたであろう揺るぎない自信も
私には無かった。

 

 

高校までは何とか背伸びをしてやってきた私も

 

お金持ちで愛情を十分に与えられ上質なものだけに触れてきた
生まれつき美しく賢い人たち

 

そんなどうしようもなくレベルの高い人たちに遭遇し


私の話術や悪趣味ともとれる派手な外見

ハイテンションだけでは通用しないと知り絶望した。

 

 


私の生い立ちでは私の外見では
どんな努力をしたってこんな人たちには叶わないと知った。

 

 

多分生まれて初めて無理なことがあるんだとわかった。

 

そんなの当たり前なのに

 

私は自分が死ぬほど努力すれば
どんなレベルの人でもついていける、魅了できると思っていたのだ。

 

 


一週間も経つとルリコは「私はイケている」と自分の価値をハッキリと自覚し
私はルリコにくっついて恩恵を得ているだけの存在になっていった。