逆境から立ち上がった臨床心理士

―ADHD・ASD・ギフテッド・養護施設出身の被虐待児―

自叙伝58 人生最高に幸せな日

大学時代のことを書こうとすると

 

なぜか逃げたくなってモヤモヤとしてきて
なかなか書けなかった。

 


思い出したくないのか?と自分に問いかけると

 

そんなこともなくて

人生で一番、青春を謳歌していた時代でもあるし
人生で一番、普通の人を演じられていた時代でもある。

 

 

私がとても大事にしている時代なんだけど

この頃のことをリアルに思い出すと、とにかく苦しい。

 

 

ここまで自叙伝で書いてきたように

私はいつも120パーセント・・・
いや200パーセントの力を出して生きてきたんだと思う。

 

 

大学時代はそれが300パーセントくらいで生きていた感覚がする。

 

20歳前後のエネルギー溢れる時期の300パーセント

 

それはそれはエネルギッシュで
今の44歳の私にはそれを感じながら書くのがかなりきつい。

 

 

それだけじゃなくて

私が一番苦手な苦しさは


周囲に合わせて擬態する苦しさと、自分の力を無にされる苦しさで

この時代はこれで満ちていた。

 


一方でこの時代は

 

キラキラしていて誇りに思う自分がいる
楽しくて刺激的で美しい思い出ばかり
今の自分を作ってくれた沢山の経験がある


一番大事にしたい思い出だ。

 

それなのに
思い出すのが一番苦しいっていう、大きな矛盾がある。

 

 

私自身がこんなふうに混乱しているから
話が前後したり飛んだりすると思うけど

 

それもこの頃の私の混乱を表していると思って読んでくれると嬉しい。

 

 

 

大学時代のスタート。


まずは一人暮らしのはじまり。

 

本当に色んな知恵を駆使して養父をコントロールしながら
一人暮らしのマンションを自分の理想に近づけた。

 

 

マンションはなんと新築だ。

 

養父母も物件探しは慣れていない。

そこで大学に頼った所、学生しか住まないマンションということでここを勧められた。

 

都会から離れた場所でさらに駅から離れているから
新築のマンションでも家賃はとても安かった。


そうでなければ
養父母は私にボロアパートを探してきただろう。

 

 

見に行った時はまだマンションは完成していなくて
ビニールが掛かっていて塗料のにおいがして

ここに私が住むんだと想像しただけでワクワクが止まらなかった。

 

 

そして完成したマンションを見た時はもう
天にも昇るようだった。

 

この興奮は今も上手に言葉にできない。

 


すごい!信じられない!
自分がこんな場所に住めるなんて夢じゃない?!

 

死んでもいいって一瞬思ったかな。

 

 

どう伝えたらいいだろうか。

 

みんなの感覚でいうと
家賃100万円くらいの高級マンションに住むようなイメージかもしれない。

 

 

田舎の駅から徒歩25分の小さなワンルーム。

 

だけど9階建てで(私の気持ちでは高層マンション)
エレベーターがあって(エレベーターなんてほとんどのったことない)

 

私の部屋の5階からの景色は涙がでるほど壮観で
新築のにおいが嬉しくて
ピカピカで白い壁が眩しくて。

 


小さい頃にたらい回しにされた家は
くみ取り式のトイレ、すきま風でガタガタするようなトタン屋根のボロ家

 

東北の養護施設

 

錆びて壊れた門、剥がれた土壁、カビやほこりやタバコの煙にまみれ
不潔で虫が大量発生する家

 

こんな所で育ってきた私にとっては本当に夢のようなお城だった。

 

 

夢のようなお城に生活必需品やインテリアを揃える。


その時、かなりオシャレだった無印良品で揃えた。

 

 

ブルーのカーテン。

 

シングルのベットマットを直置きで
ブルーのシーツ、ストライプの布団カバー。


自分で描いたモネを模写した油絵を飾って

家具はチェスト1つだけ
小さなサボテンととても小さな洋酒の瓶、アンティークのベルを置いて

 

自分の帽子やバッグを飾って

 


今思うとあまりに簡素だと思うんだけど

「インテリアのカタログに載ってるみたいな部屋!」って興奮してた。

 

 

引っ越して数日は

 

帰宅する度に「うそでしょ」って驚いて目を見開いたり
部屋をうろうろと歩きながら嬉しすぎて「きゃー」とはしゃいだり
部屋を見回してニヤニヤしたり

 

嬉しすぎてバカみたいな行動をしてた。

 

 

何より思い出深いのは

 

引っ越して初めて
こんな夢のような自分だけの城で

親がいない夜を過ごした日のこと。

 

 

一人でこの部屋にいるだけで
ジワジワと幸せな気持ちが湧きあがってくるのを感じる。

 


静かで安全で美しい場所で何かに守られているような安心感。

生まれて初めての感情だ。

 

 

お腹がすいたから
コンビニに行ってお弁当とお茶を買ってきた。

 


ベッド代わりの直置きのシングルのマットレスに腰掛けて
14インチの小さなテレビをつけて

 

最初にお弁当のしゃけを口に入れる。

 

 


ぽろぽろと涙がこぼれる。

 

あれ?と思ったけど

涙がどんどん止まらなくなってしばらく嗚咽をもらして泣いた。

 


人は幸せすぎても嗚咽をもらして泣くのだ。

 

 

誰にも監視されていない
誰にも命令されない
誰にも笑われたり叱られたりしない

 

誰かの話相手をしなくてもいい
誰かの機嫌をとり続けなくても良い

 

誰にも怒鳴られたり殴られたりしない
誰にも性的欲求を向けられない

 


汚い場所で汚い人間を目の前にして
まずいものを無理して口につめこんで飲み込まなくていい

 

 

自分だけの美しい城で

 

ただ黙って
大好きなテレビを見ながら
食べたいものを食べたいように食べている

 


それがあまりに幸せすぎて
感じたことのないとてつもない幸せで
私は心臓が痛くて痛くて死んでしまうかと思った。

 

 

私も年を重ねて信じられないほどの幸せを経験してきたけど
いまだにこの瞬間の幸せだけは超えない。


幸せを感じる大きさは落差にあるのかもしれない。

 

 

 

18年間奴隷生活を耐えてきて解放されたこの日ほどの幸せは
きっとあるはずがないんだろう。