逆境から立ち上がった臨床心理士

―ADHD・ASD・ギフテッド・養護施設出身の被虐待児―

愛着障害のカウンセリングの経過③ー子どもに返るー


ここまでの一連の流れで
クライエントさんはどんどん子どもに返っていきます。 

 

 

精神的に成熟するためには
どんな人でも必ず
子ども時代を経験しなければなりません。

 


何をしても愛される
自分のワガママを聞いてもらえる
人の心配をせずに自分のことだけ考えられる
自分は素晴らしい存在と思わせてもらえる
いつも見守ってもらえる・・・

 


こんな経験を経て

 

自由で無邪気で自分のことを大好きな自分を作ることが出来る。

 


自分をしっかりと作ることができていて
安定した自分があるからこそ

 

家族以外の人と関わっていく経験や難しい現実に直面する経験でも

 

自分で人や現実と、折り合いをつけていけるようになるんですね。

 

 

 

愛着障害の人は

 

親子関係が逆転したまま育ってきた
最初から成熟することを求められてきたせいで

 

自分を作ることが出来ませんでした。

 

 


子ども時代に自分を作ることが出来ないまま
空っぽで不安定な自分のまま

 

いきなり難しい人間関係や現実に直面させられてきました。

 

 


これが愛着障害の人の
大きな心の傷となり、恐れとなり
自分を守りすぎてしまう原因となるんですね。

 

 

 

子役のタレントさんで

 

大人顔負けの礼儀正しさと気遣いをもって
饒舌にお話する子どもがいますよね。

 


タレントさんの場合
仕事以外では子どもとして過ごしていると思いますが

 

愛着障害の人の子ども時代は
24時間このような過ごし方になっている状態です。

 


本当は
いつも無邪気に自由奔放に
バカなことを言って自分勝手にふるまっていい年齢です。

 

ほとんどの場所では
礼儀正しすぎなくても、人への気遣いをしすぎなくてもいいはずの年齢です。

 


それなのに

 

まるで子役のタレントさんの仕事のように
完璧に礼儀正しく気遣いせずにはいられない・・・

 


子どもがずっとこの状態でいなければいけないなんて
どれだけつらいことでしょうか。

 

 

 

愛着障害の人は
大人になっても同じような状態が続きます。

 

子どもの心のまま
必死に頭を使って正しい振る舞いを考えて実行します。

 


自分より人の気持ちや事情を優先させ
その人が望む言葉を発します。

 

人といると
自分が感じたり楽しんだりすることより
自分は間違っていないだろうかと自分を見張る事に集中しています。

 

目の前の人に嫌われないように
品行方正でいようとします。

 

自分の本当の思いは口にせず
建前ばかりを口にします。

 

 

 

愛着障害の人は
こうしなければ親子関係を保てませんでした。

 

子どもの頃からずっとこうせざるを得なかったため
体にしみついてしまっているんです。

 

だから
親子関係以外の人間関係でも同じことを繰り返します。

 

 

 

これでは
人に心を開きたくても開くことはできませんよね。


自分の気持ちが自分でもわかりませんよね。

 

 

残念なことですが
努力をしているのに人と信頼関係を築くのが難しいのは当然なんです。

 

 

 

ではカウンセリングではどうなるでしょうか。

 


やはり
本音のフリをした建前を語り続けることになってしまい
カウンセリングがうまくいかないんです。

 

 

 

愛着障害のカウンセリングで
もっとも重要なのは

 

まず子どもに返ってもらうことだと私は思います。

 


完璧に礼儀正しく気遣いせずにいられない子どもに

 

見ず知らずの大人に
礼儀正しく気遣いをしたままの態度で

 

上手に自分に起きていることや感情を話すことを求めるのは
とてもストレスがかかります。

 


ただ話したいこと話せるように
自分の話をすることだけに集中できるように

 

早く子どもに返ってもらわなければ
クライエントさんの奥底にあるものは出てこないんです。

 

 

 

これまでの流れでも少しずつ子どもに返っていくのですが
まだまだ十分ではありません。

 

<愛着障害のカウンセリングの経過①ー自分の話をするまでが難しいー>
<愛着障害のカウンセリングの経過②ーダメな自分を見守るー>

 

 

 

外の世界以外ではない、カウンセリングの場では
礼儀正しく気遣いする必要なんてないんだということ

 


あなたを大事にする役割の私は
「理想の子ども像」を演じて欲しいのでは無く
感じたそのまんまでいてくれることを望んでいるんだということ

 


大事にされる役割のあなたは
機嫌をとるんじゃなく、機嫌をとられる立場なんだということ

 


正しくないことも失敗することも
私も同じで、みんな同じで、当たり前なんだということ

 

 

 

カウンセリングで自然と話をしながら
これを少しずつ
言葉だけではなく体や表情や声、空気全体で伝えていきます。

 


そうしてみなさん
子どもに戻って
自分の話したいことを話すことに集中できるようになっていきます。

 

 

 

話すことだけでなく
クライエントさんは全体的に子どもに返っていきます。

 


子どもに返るとはどんなことでしょうか。
どんなことが起こるのでしょうか。

 


子どもに返ることもまた
これまでのカウンセリングの過程のように
クライエントさんに大きな喜びと、大変な苦悩が待ち受けています。

 

 

 

 

 

<愛着障害のカウンセリングの経過②ーダメな自分を見守るー>

 

自分が何も出来なくなることが大変つらいと書きました。

 

 


子どもに返ると

 


何をしても愛される
自分のワガママを聞いてもらえる
人の心配をせずに自分のことだけ考えられる
自分は素晴らしい存在と思わせてもらえる
いつも見守ってもらえる・・・ことで

 


一時的に

 

とてもワガママで自己中心的な性格になります。

 

人のことを考えられません。

 

自己愛が高くなり傲慢になります。

 

甘えがひどくなります。

 

 

 

生まれて初めて思ったことを口にする

そのままの感情を出す

 

自分の話だけを好きなようにして

強く興味を持って聞いてもらって

自分の味方になってもらう

 

 

こんな経験は初めてで

どんどん気分は良くなっていきます。

 

 

 

一方で

感情は大きくなり、しまっておけなくなり

自分の話をする以外の対話は我慢できなくなり

自分に強い興味、関心がつねに保たれていないと許せなくなり

自分が間違っていたとしても、自分の味方でないと腹を立てます。

 

 

 

子どもは誰もがこんなものですが

 

大人がこうなると「性格が悪い」と思われてしまいますよね。

 

 

 

子どもとして過ごす経験をするために
カウンセリングで子どもに返らなければいけないので

 

これはカウンセリングでは大きな進歩と言えるのですが

 

一時的に性格が悪くなっていることに気づいたクライエントさんは

自己嫌悪にさいなまれるようになります。

 

 

 

ずっと無理をして我慢をして
素晴らしい人間として過ごしてきた、色んなことを上手くやってきた
愛着障害の人にとって

 

自分が嫌悪していた性格の悪い人間に

自分がなってしまうことはとてつもない苦痛です。

 

 


自分のことが大嫌いになり
人のことが大嫌いになり
全てに腹を立てて
何もしたくなくなってしまいます。

 

 

 

みなさん立派にお仕事をされていました。

 

子育てや家事を立派にされていました。

 

人間関係を良好に保っていました。

 


それなのに

 

全て上手くいかなくなり
思い通りにならない自分や人に怒りが止まらない
何もかもが嫌になって放りだしたくなる
感情的になり自分のコントロールがきかない

 


カウンセリングによって

 

自分は悪くなったと私に怒りを持つ時期で
カウンセリングを続けるのも嫌になる時期です。

 


カウンセリングが順調に進んでいるからこそ起きている現象なのですが

 

クライエントさんからするとあまりの苦しさや大きな変化に
「カウンセリングのせいで」と思ってしまうのも
私に怒りをぶつけたくなるのも当然です。

 

 


本当に子どもだったら


周りも同じで大きな責任を背負っていないから

子どもらしく未熟で大丈夫なのに

 

大人になってから子どもに返るのは


未熟な自分を隠しながら人と接さなければならない
未熟な自分を受け入れなければならないことで
苦しい大変な体験になってしまうんですね。

 

 


心の中で沢山の感情や思いが渦巻きます。


でも誰にも出すことができません。大事な人に対してもです。
子どもに戻った自分は隠さなければいけません。

 


起きていることは体験しなければ理解できません。

説明しても、絶対にわかってはもらえません。

 

未熟な状態を見せれば誤解されてしまいます。

 

 

 

大きな感情を持ちながら
目の前の仕事などに集中するのは苦しく難しいことです。

 

失言や失敗が増えやすくなり
自分が情けなくなり人の評価も気になり不安で仕方がありません。

 


なんでクライエントさんが
こんな苦しい思いをしなきゃいけないのかと私も悔しくつらい思いがします。

 

カウンセリング以外の時間も見守って支えることが出来たら
どれだけ楽かと思います。

 


でも私は
週に一度50分話すだけしかできません。

 


クライエントさんに一週間頑張ってもらうしかないんですね。

 

申し訳なく苦しいことです。

 

 

 

この時期は
上手くやることではなく

 

無事に過ごすことが目標です。

 


これだけ大変なので、出来ないのは当然の時期です。
出来ないところを見つけて批判しても仕方がありません。

 

 

 

人前で感情を爆発させないでいられた。

 

立場が危うくなるほどのミスはしないでいられた。

 

全てを放り投げないでいられた。

 

自分を傷つけないでいられた。

 


一週間無事でいられたことを喜びながら
上手く出来ないのは当然の時期だと受け入れながら

 

空しさや悔しさや嘆きの感情を吐き出しながら

 

一緒に
子どもの自分を許し見守っていきます。

 


この時期に
自分を許さないで無理をさせたり

 

大変なのに平然としたりしてしまうと

 

この時期が長引いたり
感情が大きく膨れあがって大きなミスを引き起こしたり
カウンセリングが続かなくなってしまいます。

 


クライエントさんも私も

 

このダメになってしまう時期を
どうなだめながら愛情を減らさずに見守り続けるかが
とても苦しく難しいことですが頑張りどころです。

 

 

 

 

 

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