逆境から立ち上がった臨床心理士

―ADHD・ASD・ギフテッド・養護施設出身の被虐待児―

私が考える「トラウマを乗り越える」とは

トラウマを乗り越えたい。

 

私も何度そう考えたことでしょうか。

 

 

 

「トラウマを乗り越える」とは
一体どういうことなのでしょうか。

 


私もあれほどいつも考えていたことなのに
全く具体的に目指すイメージを考えたことがありませんでした。

 


みなさんの「トラウマを乗り越える」イメージは
どのようなものですか?

 

 

 

過去の嫌な記憶だけバッサリと消す。

 

嫌な記憶はあっても笑い話に出来る。

 

嫌な記憶を見て見ぬふりを出来る。

 


このようなものでしょうか。

 

 

 


トラウマを乗り越えたという人に

お会いしたり、手記を読んだりして気づいたことがあります。

 

同じような過酷な経験をして、トラウマを乗り越えてきたとしても
その方々は全く違う人物像なんです。

 

それは大きく3タイプに分けられました。

 


①いつも明るく元気でポジティブで
苦難も笑い飛ばして小さな事ではへこたれない人

 


②いつも冷静で勉強家で知識が豊富で
苦難を分析して対処して乗り越えて揺らがない人

 


③ポジティブだったりネガティブだったり感情豊かで
日々の出来事に一喜一憂しながらも全体的には穏やかにすごしている人

 

 

 

不思議なほど全く違うタイプですね。

 


私がカウンセリングをお断りするのは
無意識に①、②の姿を目指しているのではないかと思う人です。

 

トラウマの苦しみから解放する手助けをしたいと思っていても
目指すゴールが違ったら、当然それは無理なことになります。

 

私のやり方では③を目指しているので
残念ながらお断りすることはとても多いです。

 

 

 

実は私は

 

先ほど挙げた①②で
トラウマを乗り越えようとしたこともありました。

 


過去は関係ない。
未来を良くしていけばいい。

 

過去を笑い飛ばして困難にも強く立ち向かっていく。

 


この方法はとても楽でした。

 

つらいことから目を背けられる。感じなくていい。
いつもハイで居られて目の前のことに集中していればいい。
いつも明るく元気で落ち込まないので、人が寄ってくる。

 


私はこんな自分に満足は出来なかったんです。

 


人から好かれ、強く立派だと言われる。
でも本当は自分の中にくすぶっている大きな感情がある。

 

自分の本当の姿を隠していることに罪悪感が大きくなり
本当は情けない自分の姿に全ての人に劣等感が止まりませんでした。

 


ある程度
過去のことが精算出来て
日常的に思い出さなくなって、なんとか普通に過ごせるようになって
自分はトラウマを乗り越えたと思っていました。

 


でも忘れようとしても
過去の沢山のトラウマのせいで
現在の自分の状況に及ぼしているという現実がついてまわりました。

 


養護施設出身で親が居ないことで大きなハンデがあった。
そんな自分のことを話せずに人間関係は上手くいかず抱えるストレスは大きかった。
虐待を受けたせいで身につけた性格は人間関係を難しくした。

 

それらの諸々のハンデのせいで
目の前のことを何とかこなすことに精一杯で
人間関係を何とか継続させることに精一杯で
ずっと悩み苦しみ、勉強や趣味など何も身につけられなかった。

 


こんなに大変だったことを全て無かったことにして
未来だけ見て明るく元気でいる私は

 

いつも人から
「何の苦労も無いのに、勉強も出来ないし面白い経験もない
 優秀な所も無い、つまらない人。人生を怠けてきたおちゃらけた人」

 

必ずそう見られてしまうんですね。

 


これは言葉にならないぐらい悔しいことでした。

 


このやり方は
前向きに、現状は変えていけます。

 

でも人の評価を抜いた、自分だけの自信はつきません。
本当の自分は分からないまま、中身は空っぽの自分になってしまいます。

 


この経験から分かりました。

 

トラウマの影響が数年で済んだ人は
このやり方でもいいのかもしれませんが

 

私のようにトラウマの内容が過酷で多岐に渡っていて
その影響が長く人生に陰を落とした人は
このやり方では本人の苦しさは無くなりません。

 

 

 

次に
自分の人生や自分自身を心理学を元にして解釈をして
自分を理解し納得させ、トラウマに対処していこうとしました。

 

認知の歪みを治せば人間関係は円滑にいく。
そうすれば情緒が安定する。
正しいやり方で正しい人間に近づく。

 


そんなふうにしていくうちに過去について考えなくなり
情緒は安定し上手く振る舞えるようになりました。

 

でも私はこんな自分が嫌いでした。

 


正しいやり方ばかりを探して、自分の感情や考えが無くなっていきました。
自分を縛りつけ、力を無くしていきました。

 


それまでの私は
本当にトラウマに死ぬほど苦しめられ
思い通りにならない自分に混乱していました。

 

でも一方で
喜怒哀楽が豊かで人間らしく、人の苦しさや悲しみを感じる優しい自分だった。

 


そんな私が別人のようになってしまいました。

 

いつも冷静で世の中を斜めに見て何も楽しもうとしない。
人に対して愛情や共感は感じない。
人より頭が回る自分に傲慢になり
問題を解決するために上から助言したり、正論を言ったりする。

 

そんな私が嫌いな人間になってしまいました。

 


生まれつき感情の大きさが大きくない人や
創造的で自由を求めるようなタイプではない人は
このやり方で不具合は無いのかも知れません。

 

でも私のように
生まれつき感情が大きく感性豊かでエネルギッシュな人は
全く自分とは逆の人間として生きることになってしまいます。
きっととても苦しいのではないでしょうか。

 

 

 

最後、今の私がトラウマを乗り越えるためにやってきたのは
全部をそのまま見ることです。

 

本当に苦しいけれど慣れるまで何度でも見返して
その時の感情を受け止める。自分の頑張りを全部見逃さない。

 


いつでも自分の人生のどの時代も思い出せるようになったら
トラウマ以外の
何でもない時間や楽しかった時間や嬉しかった時間を思い出せるようになって
自分の全体が見えてくる。

 


長い自分の人生の中で経験してきて感じてきた
自分だけの人生訓を見つけられる。

 

それは同じような経験をして苦しんでいる人の役に立つし
自分の助けにもなる。

 


過去は過去で忘れてしまえばいい。

 

その考え方も分かります。

 


でも私は

 

これまでの自分の人生の時間の全てがつながって見えてこそ
本当の自分が分かってくるんだと思います。

 

過去には
未来の自分の為の知恵が眠っていて
それがこの先の自分を支えてくれると思っています。

 

それだけでなく
自分と同じような悩みを持つ人を救える大きな宝です。

 

 

 

自分を知りたい。
これまでの経験を余すことなく生かしたい。
誰かの力になりたい。

 

そう思っているなら
とても大変な作業になるけれど

③を目指してトラウマを乗り越えていくしかないと思っています。

 

 

 

私のカウンセリングでトラウマを乗り越えるやり方は③なので

 

カウンセリングは心地良いだけでなく苦しみがあること。
過去を忘れることはないこと。
最低でも1年は必要であること。
ポジティブな人間になるわけでも、冷静な人間になるわけでも無く
一喜一憂する自分に変わりは無いこと。

 

これを理解していただきたいと思っています。